奄美を知っていますか?
 台湾島の見える与那国島から黒潮に沿って海をゆけば、波照間島、石垣島などの八重山諸島を過ぎ、ついで宮古島、ややあって沖縄島に着きます。そしてそのまま沖縄島を北に進むと、次に与論島が見えます。この、与論島から島づたいに北上して、奄美大島、喜界島までが、奄美です。 ここまで来て黒潮は、太平洋に流れ込みますが、その黒潮の大河を渡ると屋久島が見えるでしょう。
 このように奄美は琉球弧の北部に位置しています。しかし同じ珊瑚礁ベルトのなかにありながら、奄美と沖縄は似て非なる歴史を歩んできました。しかもお隣りであるにもかかわらず、両者をめぐる言説は「饒舌な沖縄と沈黙の奄美」というほどに対極的です。
 どうしてそうなったのか。その知られざる奄美の謎解きが本書のモチーフになっています。
 折りしも奄美にとって、2009年は皆既日食。しかし、日食の後姿を現すのは太陽(てぃだ)だけでなく、奄美の地理と歴史も姿を現してほしい。本書にはそんな願いが込められています。

目次

第一章 二重の疎外―奄美は琉球ではない、大和でもない

  1. 四百年の失語
  2. 一六〇九年。失語の起点
  3. 琉球ではない
  4. 大和ではない
  5. 二重の疎外―奄美は琉球ではない、大和でもない
  6. 琉球にもなれ、大和にもなれ
  7. 二重の疎外とその隠蔽の核心
  8. 屈服の論理
  9. コトの収奪とモノの収奪

第二章 黒糖収奪とは何か―空っぽなモノの絶対化と食糧自給力の収奪

  1. シュガーロードは琉球発
  2. 反復する定式買入と惣買入
  3. 黒糖の硬さと甘さは珊瑚が決め手
  4. 空っぽな共同体と空っぽなモノ
  5. 食糧自給力の収奪
  6. 重層化する搾取
  7. 遊びの追放
  8. 直訴・脱島・一揆
  9. 二極化した奄美。家人と衆達

第三章 なぜ、薩摩は奄美を直接支配したのか

  1. 亜熱帯自然の包容力
  2. なぜ、薩摩は琉球を侵略したのか
  3. 沖永良部の闘い方
  4. 大和化せよ
  5. なぜ、二重の疎外に「奄美」で抗えなかったのか
  6. 奄美は植民地だった
  7. 近代化のために奄美がしたこと

第四章 近代化三幕―二重の疎外の顕在化と抵抗

  1. 二重の疎外の顕在化
  2. 奄美近代化の第一幕と第一声―大島商社と丸田南里
  3. 二つの西郷
  4. 近代化の第二幕―南島興産・県令三九号・三方法運動
  5. 近代化の第三幕1―大島経済
  6. 近代化の第三幕2―カトリック
  7. 強者の論理
  8. 無限連鎖の差異化でもなく、なし崩し的同一化でもなく

第五章 日本人になる―二重の疎外からの脱出

  1. 日本人になる―二重の疎外からの脱出
  2. 自失としての復帰
  3. 陳情嘆願書の精神的位相
  4. 敗戦を通過していない
  5. 生きるための復帰―「食べるもの、着るものの夢」
  6. 二重の疎外の瞬間凍結
  7. 「大島」解体論
  8. スイカ畑事件とジョージさんのトラック

第六章 奄美とは何か―秘する花のように

  1. 奄美とは何か
  2. 奄美は琉球である
  3. 奄振とは植民地補償である
  4. 思考を奪回する
  5. 薩摩とは何か
  6. 日本と沖縄の戦いでは、沖縄に支援せよ
  7. つながりの回復としての沖縄復帰
  8. ケンムン=キジムナー

第七章 二重の疎外の克服へ

  1. 植民地を生きて―相対化・ただの人・道之島
  2. 空虚という方法―奄美映画としての『めがね』
  3. 「奄美」づくり
  4. アマミノクロウサギにチャンスを
  5. シマ/島が主役!奄美です
  6. 「ヤポネシア」発祥の地
  7. 元ちとせ―還るという課題
◆書 名
『奄美自立論。四百年の失語を越えて』
◆著 者
喜山 荘一
◆出版社
南方新社
◆定 価
2,000円(税抜き)
◆発 行
2009年4月9日
◆著者プロフィール
喜山荘一(きやまそういち)
1963年、与論島生まれ。東京工業大学工学部卒業。マーケター。
著書に、『図解Eメールマーケティング実践講座』(2000年、インプレス)、『一億総マーケター時代の聞く技術』(2005年、阪急コミュニケーションズ)、『ウェブコミ!』(2005年、ランダムハウス講談社)、『ビートルズ 二重の主旋律』(2005年、メタ・ブレーン)、『10年商品をつくるBMR』(2007年、ドゥ・ハウス)などがある。
◆ブログ
与論島クオリア